レムデシビル:拙速な特例承認の狂気 [薬とサプリメントの問題]

米製薬会社のギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱治療のための治療薬として開発したレムデシビルが、新型コロナの治療薬として、今月7日に申請からわずか3日という異例の早さで特例承認された。

同社は、全世界で約14万人分(患者1人に10日間投与する場合)を無償で供給する方針を表明しており、厚労省は重症者向けに優先的に分配する方針とのこと。

これで世間では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬が登場したと誤解して過大な期待を抱くことだろう。しかしその効果とは、ランセットの報告を見てもたかだか回復までの期間が4日短縮された程度で、死亡率を減少させる効果は無かった(統計的有意差は認められていない)。この4日の短縮が統計的に有意とは言え、実際には臨床的な価値はほとんど無いに等しい。

但し、感染の初期段階で投与すれば一定の効果は期待できる可能性はあるが、このことが十分には調査されていない。日本政府の重症者優先の方針はそもそも間違いである。

しかしながら、この理由を説明したところで一般の人には伝わらない。医療機関の多くが、この薬の効果の実際を全く理解していない人たちによる問い合わせが殺到することで、混乱するだろう。安倍首相は、国民の命を守るのではなく、「狂気」と「混乱」を招くことになるだろう。

説明が難しく、正しければ正しい程人は聞かない。人々は、理解するのに精神的努力の最も少ない情報だけを断片的に受け入れ、それを勝手な解釈によって創作する。その結果、情報は大きくゆがめられてしまう。これを意図的に利用するのが、かつての小泉首相が行ったような「衆愚政治」。一般紙には、「新型コロナに有望薬」などといった見出しが踊っている。一般読者は、「新型コロナに効く薬がようやくできた」と誤解することだろう。

しかし、新型コロナに限らず、ウイルスを直接たたけるような薬が登場したことはただの一度もなかったし、近い将来にも開発はできないだろう。

米国食品医薬品局(FDA)は世界に先駆けて使用許可を認めたとは言え、これは緊急時の特例であって正式承認までの暫定措置である。レムデシビルの正式な製造販売承認は日本が世界初となる。死亡者が圧倒的に多いアメリカならいざ知らず、既に、感染は終息しようとしている日本において、何故このように焦って承認するのか全く理解できない。これは、次に承認を控えているアビガンとて同じ事だ。薬によるわずかな効用(怪しい)よりも、むしろ、重篤な副作用で死亡する患者の方が多くなる可能性が懸念される。

新型コロナ感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV2はRNAウイルスであり、RNAポリメラーゼ酵素に依存してRNA鎖を増殖させる。レムデシビルはこのRNAポリメラーゼ酵素に似た(一カ所の分子を変えている)構造をしているため、これを取り込んだウイルスは増殖できなくなる。これが、前述した、「初期の段階ならば有効性も期待できる」と述べた理由である。

重症化したその病態の本体は、ウイルスそのものによるものではなく、自身の免疫の暴走によって起きた全身の炎症である「サイトカインストーム」。この段階の治療は、ステロイドの大量投与、免疫抑制剤、および血漿交換などである。しかし、現実には、ほとんどの患者が回復しない。

さらに、問題なのは副作用。最後のエボラ出血熱の流行期間に行われた、レムデシビル(RDV)の無作為化対照試験は1回のみで、しかも、患者の死亡率が有意に増加したため研究終了を待たずに中止された。つまり、エボラ出血熱患者の助けにならなかった薬だということ。次に認可される予定の、我が国発の「アビガン」も同様だ。新型インフル用に開発されて認可されたものの、死亡例が多く出たため使用できず、そのままお蔵入りしていた薬である。

ファイナンシャルタイムが報じた、STATによる研究要約では、レムデシビルは臨床的またはウイルス学的利益に関連付けられていないと結論ずけている。

レムデシビルで治療を受けた158人の患者の14%が治療の28日後に死亡したのに対し、プラシーボでは79人の13%であった。また、中国の研究者では、プラシーボの4人に対して18人の患者が副作用のために投与が中止された。現在、フェーズⅢの臨床試験の途中であり、この結果を見てから承認の是非を検討すべきだった。

追伸
政府はアビガンの5月中の承認を断念した(5月25日)。その理由は、現段階で有効性を示すデータが存在しないこと。しかしながら、今後、少しでも有効性が示されたならば、直ちに承認する予定とのこと。先ず、承認ありきで事が進められている。「特効薬を政府が用意したぞ」と、見栄を張りたいのであろうか。大して効果の無い薬を、またもや特例承認する狂気。

参照
Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial
Yeming Wang, Dingyu Zhang, Prof Guanhua Du, Prof Ronghui Du, Prof Jianping Zhao, et al.,
The Lancet,
Published:April 29, 2020•DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31022-9

コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。