経絡構造 (手の太陽小腸経) [経絡とは]

 内経のルーツと言われる『帛書』の「陰陽十一脈灸経」では、“肩脈”と呼ばれ、耳の後ろに始まり、上腕~前腕外側、手背への分布になっています。また、「足臂十一脈灸経」では、小指に始まり、尺骨下縁を通って肩の外側に出て、目の外側までの分布となっています。何れも、手の太陽経と小腸との関係は記されていません。どの様な理由で小腸と結びつけたかは現時点では不明です。

流注
霊枢:経脈篇ヨリ。小腸ハ手ノ太陽ノ脈ニシテ、(1)小指ノ端ヨリ起シ、手ノ外側ヲ循リ腕ニ上リ、踝中ニ出デ、(2)直上シテ臂骨下廉ヲ循リ、肘ノ内側ノ両筋ノ間ニ出デ、(3)上リテ臑外後廉ヲ循リ、(4)肩解ニ出デ、肩甲ヲ繞リ、肩上ニテ交ワル。(5)欠盆ニ入リ、心ニ絡ス。(6)咽ヲ循リ、膈ヲ下リ、胃ニ抵リ、小腸ニ属ス。(7)ソノ支ナルハ、欠盆ヨリ頚ヲ循リ、頬ニ上リ、目ノ鋭眦ニ至リ、却キテ耳中ニ入ル。(8)ソノ支ナルハ、頬ヨリ別レテ出頁ヲ上リ、鼻ニ抵リ、目ノ内眦ニ至ル。(9)斜ニ顴ニイキ絡ス。

語彙説明
 肩解:後方四角腔(その根拠は、針灸大成校釈の解説で「即肩後骨縫,為肩胛棘端与上臂相交之処」より、肩の後方の裂け目で、肩甲棘と上腕が交差する部位として判断した。)

流注解釈
 (1)小指尺側手背の背側指神経末端より始まり、尺骨神経手背枝へと進み、背枝にて手関節背側中央にも出る。(2)さらに直上して、尺骨茎状突起の下側に沿って進み、[支正穴の位置で尺骨神経本幹へと入り]尺側手根屈筋の両頭間より尺骨神経溝に出て、(3)上腕内後側(原典の腕外後廉は、基本肢位にて後方より見ると神経溝は後側中央よりやや外側に向くことを示す)に上り、(4)尺骨神経を中枢へ向かい、[*下神経幹の位置で反転して後神経束より]腋窩神経へ進む。外方四角腔(を含めた後方四角腔=肩解)より出て小円筋に向かい、その末端が肩甲上神経に交通し中枢へ進み、中頚神経節にて左右が交わると見た。(5)交感神経幹を下り胸郭上口へ入り、中頚心臓神経にて心臓神経叢に入る。(6)交感神経幹を下り横隔膜を過ぎ、腹腔神経節より胃に至り、上腸管膜動脈神経叢より小腸に分布する。(7)その支脈は、交感神経幹を上り、上頚神経節より内頚動脈神経,大錐体神経より顔面神経に入り顔面神経側頭枝の眼輪筋への分枝にて目の外側へ向かい、側頭枝の前頭筋への分枝より再び中枢へ戻る。(耳へ入るとみた)(8)頬骨枝に別れて、頬骨を上り鼻へ分枝を出し目の内側へ至る。(9)頬筋枝にて頬部へ結びつく。
 
* 下神経幹まできた後、反転して抹消へ向かい、後神経束から腋窩神経へと進むとする推測は不自然ではあります。小腸経の絡脈では、前腕から上腕内後側を皮神経を繋いで走行しますが、本経は腕の深部を走行するためこの様な経路が推測されます。
 これは流注文の(2)の、…両筋ノ間ニ出デと(4)の肩解ニ出デの「出る」の語彙を忠実に解釈した結果です。恐らく、臨床的に、肩甲棘下部を刺激した際に上腕~前腕尺側に放散するシビレ感を経験し、これを神経を辿り繋いで構成したものと思われます。

経穴分布
 流注解釈より、心臓神経より小腸までと、顔面神経幹及びその分枝までは深部を走行するため経穴は存在しないと予想されます。また、支正穴と少海穴までの前腕および、上腕内側も無穴領域と予想されますが、実際に、経穴は存在しません。支正穴までは尺骨神経手背枝で尺側背側を浅く走行しますが、これより近位では前腕屈側深部を走行するため、小腸経としての経穴を想定しなかったものと考えられます。その後、尺骨神経溝で、一旦浅く出て(少海穴)、再び上腕内側を走行するため、上腕領域にも経穴は存在しません。 従って、経脈走行と経穴分布は全て相合する。尚、支正穴は、霊枢「根結篇および経脈篇」に出現しますが、何れもその部位についての記述はありません。

 (* 経絡構造についてのこのブログの記事は、「医道の日本誌:2000~2002年度」に発表した論文を、見直して整理することを目的としていますので、内容の一部を修正して書いています。従いまして、文献とは一部異なっています。)

流注図 (* 向かって右側は、右腕を後方より描いています)
img007.jpg

追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

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