筋・腱の付着部症(enthesopathy)の鍼治療法 [鍼治療の臨床]

 筋や腱に関連する障害に「付着部症(enthesopathy)」があります。臨床においては、筋・腱の障害よりもむしろ、これらの組織の骨への付着部の障害が多く見られます。以下の文章は、私がenthesopathyに対する共通する治療法を考案し、2004年に鍼灸の専門誌に報告した際の原稿を、2006年に「全日本鍼灸学会東京地方会」での講演用配布資料として手直したものの一部です。少々古いことと、一般向けではありませんが、これに関連した疾患の鍼灸治療法も今後ブログに書いていこうと思い、準備として掲載することにしました。
 少々長いことと、聞き慣れない言葉が多いとは思いますが、興味ある方は読んで下さい。

Enthesopathy(付着部症)の鍼治療
 
  はじめに
 筋・腱に関わる障害の好発部位として、筋・腱の骨への付着部(Enthesis)がある。Enthesisのような組成や構造に違いのあるものの接点は、筋・腱そのものよりも損傷が生じやすいことは臨床的にも体験されることである。Enthesisを病変の起こりやすい場と考え、構造上の単位として捉え、1つの疾患概念として認識したものが enthesopathy1である。 
 Enthesisは各運動器の単位である関節の周辺で、腱や靱帯が骨膜や繊維軟骨を介して骨皮質に結合する場であり、組織的な特殊性に加えて、運動器関連組織の中でも最も多くの物理,化学的ストレスを受けるため、損傷を引き起こし易い部位である。enthesopathyは以前は疾患概念として十分に認識されていなかっただけで、全身のあらゆる部位に起こる疾患であり、多くの疾患が包括される。 enthesopathyは、その発生要因によって炎症性(enthesitis),外傷性(機械性),退行性などに分類される。これらの中でも、外傷性(機械性)enthesopathyは鍼灸院でも日常診療でよく遭遇する疾患が多く、筆者はこれらの疾患をenthesopathyの概念で捉えることによって、共通する能率的な治療法があるものと模索し試みてきた。その結果、これらの疾患に対し共通する基本的な鍼療法を構築できたので紹介し、若干の私見を述べたい。
 
 ⅠEnthesisとEnthesopathy
 1.Enthesis
 Enthesisはもともとギリシャ語で、英語ではinsertionと解され、整形外科領域では筋・腱・靱帯の骨への付着部を意味する言葉として使用されている。Niepelら2 はこの部位を解剖学的に1つの構造単位であると述べ(図-1)、七川3 は機能的,病理学的な単位として認識できるとしている。小島ら4 はEnthesisでは豊富な知覚性神経繊維が複雑な神経叢を形成しており、一般知覚のみならず靱帯の伸びを感受するような働きをし、アミン作動性交感神経線維やsubstanse P含有神経線維が神経網を形成し、前者は循環・コラーゲン代謝の調整および炎症の発症に関与し、後者は温痛覚刺激の感受および炎症の発現・増悪に関与すると述べ、Enthesopathyとの関連性について指摘している。
 また、腱・靱帯の付着部の周囲には、滑液包(burusa)や脂肪性結合組織が多く見られ,この脂肪性組織内には豊富な血管と神経組織があり症候性要因となっている。このように、腱・靱帯の付着部に隣接する滑液包とその壁を構成する組織全体をentthesis organとして捉える考えもある。
 2.Enthesopathy
 enthesopathyは前述したように、Enthesisに発生する加齢現象,障害および疾患の総称であり、頭蓋骨を含むほぼ全身の骨に発生し、種々の疾患が包括される(表-1)2。その発生要因によって炎症性,外傷性(機械性),退行性等に大別される。炎症性enthesopathy(enthesitis)には慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、Reiter症候群、クローン病、ベーチェット病等が含まれる。
 退行性enthesopathyでは、加齢に伴い、腱線維の変性や骨増殖によってenthesophyteを形成する。好発部位は、 踵骨,膝蓋骨上下極,腸骨稜,大腿骨転子部等である。
 enthesopathyは以前は付着部炎として訳されることが多かったが、厳密には病理組織像としての炎症性変化を伴うものばかりではなく、退行性変化や外傷性変化のよるものが多く、従って、炎症性変化に基づくものを付着部炎(enthesitis)とし、付着部症(enthesopathy)の一形態として捉えるべきと言われている。 
 外傷性(機械性)enthesopathyは、職業上の障害やスポーツ障害などによるものが多く、over useによるEnthesisへの過剰な負荷が誘因となると考えられている。その病理は主として、非石灰化線維軟骨層での亀裂.縦断列.微少外傷とその修復像が初期病変と考えられている。この外傷と修復のバランスが崩れることで症状が生じ、その後、肉芽形成.石灰化.骨化と器質的変化が進行する。さらに、enthesis organの構成要素である腱・靱帯深層にみられる種子状線維軟骨(sesamoid fibrocartilage)と、相対する骨膜性線維軟骨が繰り返し衝突することで両組織の表層に層状編成や脱落が生じ、結果的に滑液包炎を引き起こす。
  代表的な疾患では、テニス肘、ジャンパー膝 ,アキレス腱付着部炎等がある。また、靱帯裂離性の剥離骨折や成長期にみられる骨端症であるOsgood- Schlatter's disease (以下オスグッド病と表記)やSinding - Larsen - Johansson's disease等も臨床的には広義のenthesopathyに含まれる。

 Ⅱ Enthesopathy の鍼治療
 本稿では、外傷性および機械性enthesopathyを対象に紹介する。中でも、テニス肘を中心に、オスグッド病 ,アキレス腱付着部炎等の基本的な刺法を説明し、若干の考察を加える。また、鑑別上問題となる、橈骨神経のEntrapment Neuropathy(以後Radial Tunnel Syndromeと記す)の診察に於ける問題点と治療法についての私見も述べる。
 enthesopathyの鍼治療の目的は、過緊張状態にある筋群の緊張緩和によるEnthesisへの負荷の軽減と、同時に、Enthesis に対する直接的な刺鍼が重要であり、治療の中心となる。経験的には、関係する筋への散鍼のみでは著効は得られず、Enthesisに対する刺鍼ポイントの正確性が効果を左右することが分かっている。この刺法の作用機序は現段階では不明であるが、手術手技の作用機序と比較して若干の私見を後述する。

 具体的な刺法は、先ず、筋の緊張に沿って病変部である骨への付着部を求め圧痛点を検索する。次に、圧痛点より数㎜離した位置に取穴し、筋線維に対し直角方向に針先を向け斜刺する。抵抗を感じた時点で小刻みに強めに捻鍼し患部に得気を感じさせる(Et鍼と仮称)。この際、針先に線維が絡み付く抵抗を感じた場合は、緊張を緩めずにそのまま短い振幅で素早く抜鍼する(筋線維が切れる感覚を得る)。抜鍼後、筋のspasm が緩和され、各テストも陰性となれば治療効果は良好であるが、不十分であれば、刺入ポイントを変えて再度行う。但し、刺激が強いので2~3回を限度とすることが好ましい。軽症例では1~2診で軽快し、疼痛が強い症例でも日常動作への支障は早期に軽快する。スポーツによる障害でも、試合への復帰は3~7診程度で可能となる。
 
Ⅲ.疾患別刺鍼法

1.テニス肘
 テニス肘は現在一般的には上腕骨外上顆炎と同義として理解されることが多いが、発症病理に関して多くの著者が指摘5,6,7 しているように必ずしも単純ではない。外上顆炎は外上顆に付着する短橈側手根伸筋を中心とする伸筋群の過剰使用による外傷性機械的炎症であると理解されており、伸筋腱を中心にしてtendinitis, brusitis, periosteitis, epicondylitis等の病態を生じる。また、増殖した滑膜皺襞が関節内でimpinge されて関節炎様症状を発症する場合もあり、この他にも、肘関節周辺の様々な病態が含まれる。
 Bosworth8は橈骨頭が歪んだ円形をしているため、回転の際に輪状靱帯が橈骨頭と伸筋腱に挟まれてストレスを受け疼痛を発生すると述べている。筆者も、整形外科でテニス肘と診断され、上腕骨外側上顆への局注を行うも軽快しなかった患者で、橈骨頭に圧痛を認め同部へのEt鍼にて軽快した症例を複数経験している。短橈側手根伸筋は橈骨輪状靱帯にも付着しているため、橈骨頭周辺での障害も考慮すべきである。
 テニス肘の治療は、予め誘導法として、両側の足の三里または陽陵泉へ置鍼する。その後、前処置として、長,短橈側手根伸筋,総指伸筋へ散鍼し緊張を緩和する。筋腱症であればこの処置で十分であるが、本症に対しては効果は低く、筆者によるEt鍼が必要である(図-2)。まず、Middle finger test にて短橈側手根伸筋の緊張に沿ってその付着部の外上顆及び橈骨頭の圧痛部位を確認する。圧痛点に対し数㎜離した位置より斜めに刺入し、先述した方法にて施術する。抜鍼後、筋の緊張が緩和されたことを確認する。まだ残っている場合には、再度、刺入ポイントを確認して同様の処置を行う。以上の施術後、Middle finger test及び Mill's sign が陰性もしくは十分に軽減することを確認する。抵抗下に手関節を背屈させて疼痛がないか、軽減していれば治療目的は達成されたものと判断される。

Radial Tunnel Syndrome (橈骨神経深枝及び後骨間神経の絞扼性障害)
 肘外側の疼痛を引き起こす疾患でテニス肘と鑑別を要するのは橈骨神経の絞扼性神経障害である。古くは、Capener9 , Somerville10 , Kopellら11によって難治性テニス肘の原因として後骨間神経の絞扼性神経障害が報告され、その後、Roles, Maudsley12 らによって Radial Tunnel Syndrome として報告された。Werner13 は肘外側痛の5%が本症であると報告している。短橈側手根伸筋の線維性辺縁やarcade of Frohse で橈骨神経(後骨間神経)が圧迫されることが主な原因であり、症状や他覚的所見もテニス肘に共通するため注意が必要である。Roles らは鑑別法としてMiddle finger test を報告したが、短橈側手根伸筋に負荷をかけるテストであり、テニス肘でも同様に陽性となるため診断特異性はない。Werner13はMiddle finger test は寧ろ外側上顆の圧痛に相関すると報告しているが、筆者も同様の印象をもっている。
 本神経は運動枝とされ皮膚の知覚支配領野はないが、橈骨手根関節より手根中手関節背側靱帯の知覚を支配する14ので疼痛を引き起こす。疼痛は肘外側のみならず、前腕背側より手背に及ぶ患者もあり、夜間痛を主訴とする場合もある。他覚的には、肘関節から4~5㎝遠位の橈骨神経上(arcade of Frohse)に強い圧痛を認めることが重要である。但し、テニス肘や筋腱症でも短橈側手根伸筋の周辺に広範囲に圧痛を認めるので、上腕骨外側上顆及び橈骨頭に圧痛がないことが鑑別上重要である。
 本症の治療は、橈骨頭よりarcade of Frohseまでの間で、圧痛や Tinel sign 等によって entrapment point を検索し刺鍼する。その多くはarcade of Frohse の部位であり、橈骨頭より総指伸筋と長橈側手根伸筋間に沿って2横指の部位へ散鍼する。この部位は新穴の三里外に相当し、同時に arcade of Frohse にも一致する。テニス肘との合併例もよく見かけるとともに、刺鍼部位も共通し、 短橈側手根伸筋及び回外筋の緊張緩和としての効果も期待できる。予備穴として、曲池,温溜穴も適時使用する。テニス肘との合併例ではEt鍼を併用する。

2.オスグッド病
 オスグッド病は1903年にOsgood15 が大腿四頭筋の収縮力による脛骨粗面の部分的剥離を報告したものである。以来、多くの病因説が報告されてきたが、1976年Ogden16とSouthwick17は、発達中の脛骨結節の二次骨化中心の前方部分が膝蓋靱帯の牽引力によって部分的な剥離を起こし、この部分に仮骨が形成され硝子軟骨が被う病態であると述べた。これに対しRosenberg18らは、28例のオスグッド病患者の骨シンチグラフィー,CT,MRIによる研究で、膝蓋靱帯炎や滑液包炎など脛骨結節の周囲の軟部組織の炎症の方が、骨片の剥離よりも病因に関与していると報告している。また、ossicleが存在したままでも症状が回復することも論拠となっている。
 このように、オスグッド病はただちにenthesopathyとは言えないものの、膝蓋靱帯の張力によるossicleの形成と、脛骨とossicle間に介在する軟骨層内に生じている炎症性肉芽との共通性より、臨床的にはenthesopathyの範疇に入ると考えられている。また、筆者によるEt鍼にて著効が得られることからも、病態の共通性が推測される。

 本症に対するEt鍼は(図-3)、膝蓋靱帯の両側の辺縁と脛骨との接点を刺入点として、靱帯に対して直角方向に斜刺する。以下の操作は同様である。また、脛骨結節へのEt鍼のみでは直接大腿四頭筋のspasmは緩和できないため、大腿四頭筋の各motor pointに散鍼を加える。施術の際、膝関節は軽度屈曲して行う。
 
3.アキレス腱付着部症(Achills tendinopathy)
 アキレス腱は靱帯の中でも最も大きく強靱な靱帯であり、体重の8倍もの張力が作用すると言われている。しかしながら、腱鞘をもたずパラテノンと呼ばれる腱上膜で覆われている。さらに、踵骨付着部から2~6cm部分では血行に乏しい。これらの解剖学的特徴により、腱鞘(パラテノン)炎(tenosynovitis paratenonitis).アキレス腱周囲炎(peritendinitis).アキレス腱症(tendinosis).アキレス腱付着部症(inssertinal tendinosis).踵骨後部滑液包炎(retrocalcaneal bursitis)などの疾患がみられる。(図-4)
 アキレス腱付着部症の症状は、初期には主に運動時痛であり、進行すると安静時痛も訴える。瀰漫性または結節性の腫脹を認める。他動的に足関節を背屈することで痛みを誘発できる。踵骨後部滑液包炎では、付着部近位のやや内側に圧痛.腫脹を認めることで鑑別する。
 アキレス腱付着部症の治療は、腱付着部の内・外側で圧痛の強い方を刺針点としてET針を行う。腓腹筋.ヒラメ筋への散針は飛陽.築賓.上跟(私穴21:飛陽穴の斜内下1横指 ),附陽穴等を目標とする。
 この他に,踵骨隆起内側突起の足底筋膜付着部のenthesopathyがある。足底筋膜は足の縦のアーチの保持と荷重時の衝撃吸収に重要な帰納をもっているため、過大なストレスが集中する。ランニングやジャンプ動作が多いスポーツや長時間歩行する職業の人(警察官:policeman's heel)に多くみられる。踵部痛が主で、起床時の最初の一歩目の疼痛は特徴的であり、つま先立ちで増強する。但し、足根管症候群でも同様な症状であるため、足根管部のentrapment point と足底の知覚障害の有無で鑑別する。

4.ジャンパー膝(jumper's knee)
 オスグッド病に対し、膝蓋骨下極と膝蓋靱帯の接点、及び、大腿四頭筋と膝蓋骨上極との接点における障害が、ジャンパー膝19である。Sinding - Larsen - Johansen病は膝蓋骨下極の障害であり、ジャンパー膝の1つのタイプであると言われている20。ジャンプと着地やダッシュとストップなどの動作を繰り返すスポーツに多くみられ,膝関節伸展機構のover useによる障害である。大腿四頭筋の遠心性及び求心性収縮の繰り返しによる膝蓋権付着部の微小断裂が本態とされている。治療法はオスグット病に準ずる。
 
5.その他
 その他の付着部では、肩関節周囲炎の原因の一つである、上腕骨大結節の棘上筋・棘下筋付着部.大腿骨の大転子.尺側手根屈筋の豆状骨付着部などが当院では経験している。

Ⅳ 考 察
 Et鍼のヒントは、整形外科での、上腕骨外側上顆の血流改善を目的とした、decorticationとdrillingの術式22,23にあった。Et鍼による組織に対する作用機序は現段階では不明であるが、enthesis周辺の fibroblast やfibrosis及びangiofibroblastic hyperplasia等 に対し何らかの好刺激になっている可能性が考えられる。通常、炎症局所への施鍼は病変を悪化させる危険性があり賢明ではないが、本法によって治療後に悪化した症例は現段階ではなく、Et鍼の作用メカニズムによるものか、病態と病期が関与するものと思われるが、本手技の限界を含め現在のところ不明である。 
 テニス肘に対する手術法は鍼灸治療法を模索するうえで参考となるので、列挙すると。伸筋腱を覆う deep fasciaの筋膜切開(Spennser24 , Posch25 )や短橈側手根伸筋腱に手関節部位でZ延長術を行い、外上顆への負担を軽減させる方法(Garden26)がある。これに対し、短橈側手根伸筋腱,上腕骨付着部の切除,異常増殖滑膜,病的肉芽等の除去に、外上顆の血流改善を目的にdecortication と drillingを加える術式(Coonrad22 ,Nirschl23)が病変部に対してより直接的な方法と言える。これらの術式に対し、Bosworth8 は橈骨輪状靱帯を重視して短橈側手根伸筋腱と輪状靱帯を同時に切除する方法を提唱している。先述したように、筆者も橈骨頭の付着部も外上顆同様に重視して施術対象としている。
 手術後の病理学的所見では、短橈側手根伸筋外上顆付着部の慢性炎症所見が全例に見られ、変性変化の強い症例ではangiofibroblastic hyperplasiaの像が見られたと報告されている。
 一般的にテニス肘は保存的治療により軽快する場合が多いとされ、手術例は少なく全症例の3,3~8%と報告22されている。しかしながら、整形外科等での数ヶ月間に及ぶ治療で軽快せず当院を受診する患者も多く、鍼灸治療に於いても、従来の、肘周辺の経穴への刺鍼では早期に軽快するものは軽症例に限られており、治療に抵抗し長期に及ぶ者も多い。
 整形外科等での長期間に及ぶ治療で軽快せず、当院を受診したテニス肘の患者では、外側上顆への局注のみ行われ、橈骨頭の病変に対処していない場合が多い。また、適否を考慮せず温熱療法を漫然と続けていることが非常に多いことにも問題がある。温熱療法は効果がなく、炎症の強い症例では悪化させるか、治癒を遅らせることに留意すべきである。

  オスグッド病は小,中学生のスポーツ障害として多発する疾患である。発症頻度は多いものの、現在の整形外科領域でも目立った進歩もなく、「成長痛」などと説明され放置されることも少なくない疾患である。オスグッド病の患者は、Kujalaら27によると、平均3,2 ~ 7,3ヶ月でスポーツを再開できるとしている。筆者の経験では、Et鍼によって数回程度の治療で軽快しスポーツに復帰できることが多く、優れた方法と言える。
 オスグッド病の病態が、脛骨粗面の軟骨の損傷を主体とするものであれば、鍼灸治療の効果は期待できないものとなる。しかしながら、本法によって、ほとんどの患者が早期に回復する事実から、Rosenbergらの説も含め、enthesopathyと共通の病態が疼痛の原因ではないかと考えられる。
 
 アキレス腱付着部症の多くは、急に散歩やスポーツを始めるなどの馴れない動作で発症する場合が多く、発症起点はさ程ではないにもかかわらず、整形外科等での治療で軽快せず当院を受診する患者が多い。これらの患者はEt鍼にて速やかに軽快することからも、先述したように、温熱療法や局所への電気治療によって治癒が遅れるものと考えられる。
  
おわりに
 Et鍼はこれまでの経験より、外傷性及び機械性enthesopathyに対し効果的な方法と言えるが、病態の程度による限界点や治効機序が不明な点は今後の課題である。また、現在までのところ、炎症性enthesopathy(enthesitis)に対しては試みていないため、これらの疾患に対する有効性は不明である。
 外傷性及び機械性enthesopathy に対する針治療法として、テニス肘を中心にオスグッド病及びアキレス腱付着部症などを紹介し若干の考察を加えた。これらの疾患は従来良く知られたものであるが、enthesopathyの疾患概念で捉えることで病態解釈と鍼治療に新たな手段を与えるものであり、ET針は同様の病態による他の疾患に対しても共通の治療法として応用できるため、臨床的に有効な治療手技に成り得るものと期待する。

図1-図3.gif 

追伸
2016年8月27日に、「附着部障害の鍼治療-Clinical Acupuncture Therapeutics of Enthesopathy」を
出版しました。
本書には、上記原稿以後の新たな知見を加え、12種類のenthesopathyについて解説しています。市販はしていませんが、本ブログを通じて販売しています。詳しくは、カテゴリーの「出版のお知らせ」を見てください。


引用文献
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